5/02/2021

インドでCOVID-19が急増しているのはなぜか?

ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルより

カマラ・チアガラジャン

インドの感染症は4月にパンデミックの新記録を打ち立て、1週間にわたって毎日30万人以上の陽性者が出ています。カマラ・チアガラジャンは、多くの未解決の問題について考察しています。

4月26日、インドでは、SARS-CoV-2の新規感染者が1日あたり360,960人と世界最高を記録し、パンデミックの累計感染者数は米国に次ぐ1,600万人、死者数は20万人を超えました。

壊滅的な第2波は、世界で最も厳しいロックダウン規制を実施してから1年後に発生しました。そして、保健省が感染率と死亡率が過去最悪であると発表してからわずか3か月後のことでした。1

インドの第2波の原因は何なのか、そして第1波と比べてなぜこれほどまでに悪化しているのか?

第1波の後、人々は警戒を怠ってしまったと、インドの全国的なCOVIDワクチン政策の立案に携わった疫学者のチャンドラカント・ラハリヤは言います。「デリーやマハラシュトラなど、最も被害の大きかった州では、地域社会での感染があまりに蔓延していたため、局地的な流行が何度も起きています。」と述べています。メディアの報道では、最近の選挙のための大規模集会や、ガンジス川に数十万人のヒンズー教徒が集まるクンブ・メーラなどの宗教行事と並んで、ゆるい社会的距離とマスク着用を非難しています。

疫学者であり、ケララ州スリッスールにある非営利団体「Health Action by People」の名誉会長であるV・ラマン・クッティは「第1波が終わったと思われる頃に、政府は制限を緩和していました」と述べています。「モールや劇場がオープンし、スポーツイベントや選挙、宗教行事が行われました。政治家は、インドがパンデミックを克服したと根拠のない主張をしました。」

2020年12月に「International Journal of Infectious Diseases」に掲載された報告書は、最初のロックダウンで感染率が大幅に低下したと結論付けていますが、ロックダウンはアウトブレイクを鎮めるための一時的な措置に過ぎないと警告しています。2 著者らは、二次感染を防ぐために検査や自己隔離を強化することを推奨しましたが、インドの検査率は依然として世界最低レベルです。インドでは、国全体の毎日の検査数を公表していないため、比較は困難ですが、保健省によると、4月27日までに合計175万サンプルのPCR検査が行われたとのことです。イギリスでは1日に50万件のPCR検査を実施しています。3

また、インドの医療インフラは、パンデミック前から問題を抱えていましたが、今では圧倒されてしまっています。

最初のロックダウンが解除された直後の2020年5月11日、政府の政策シンクタンクNITI Aayogは、インドのCOVID-19対応を分析しました。4 検査キット、PPE、マスク、人工呼吸器などの医療機器が非常に不足していることが分かりました。また、長期にわたる救急医療の不足と専門家の不足にも言及しました。医師と患者の比率は1:1445、病床と人口の比率は0.7:1000、人口に対する人工呼吸器の比率は4万対13億となっています。

今回の危機では、15か国とユニセフなどの国際援助機関から医薬品や酸素が運ばれてきています。心臓外科医であり、医療センターチェーンのNarayana Healthの会長兼創設者であるDevi Prakash Shettyは、今後数週間でインドには約50万床のICUベッドと35万人の医療スタッフが必要になると見積もっています。現在、インドのICUベッドは9万床しかなく、ほぼ万床の状態です。5

また、インドは世界最大級の医薬品製造能力を誇るにもかかわらず、13億6千万人の人口にワクチン接種するのに苦労しています。6

2021年の入ってから、なぜインドのCOVID-19の感染が減少したのでしょうか?

これについてはまだ不明ですが、クッティは、第1波の真に先細りになっている可能性が高いと述べています。彼は、「1月から2月までに検査陽性率が低下していたので、感染症の減少があったと考えていいだろう。」と指摘しています。

しかし、検査の数値だけでは、すべてを語ることはできません。クッティはBMJに、「インドの公式統計は、政治家の都合の良いように改ざんされることが多く、報告を少なくするように多大な圧力がかかっていました。」と述べ、感染数と死亡率の数字にも透明性が欠けていると指摘しました。「誰が責任を負っているのか、ほとんど分かりません。それは間違いなく行われた検査の数に依存しており、多くの州では十分な検査が行​​われなかったと言えるでしょう。しかし、死亡者数はより確かな指標であり、第1波では、他国に比べて死亡者数が少なかったようです。しかし、第2波は、まったく別の話です。」

死者数が1600万人と言われているインドでは、公式に発表されている数字は実際の数字よりはるかに低い可能性があるとラハリヤは言います。「検査はは限界があり、検査を受けていない多くの人が[病院に]入院しました。このような患者が死亡しても、その死亡はCOVID-19によるお死亡として記録されません」と彼は言い、退院後、かなり遅れて死亡することもあると付け加えました。7

第2波は第1波とどう違うのか?

「以前は個人が感染を受けていましたが、今日では家族全員がCOVIDに感染しています」とラハリヤは言います。世界で2番目に人口の多い国であり、三世代同居世帯が多いことから、クラスターが発生する可能性があります。

2月のLancet Global Health誌で発表された研究によると、第1波の感染者は都市部で最大50%に達したとのことです。8 第2波は、人々が最寄りの病院に行くために遠くまで移動しなければならない農村地域に広がっているようです。パンジャブ州の医療記録によると、移動による遅延のために、到着した時点で80%以上の患者が、重篤な症状を示しています。9

少なくともニューデリーでは、仕事に出かける30〜50歳代の人々が、この新しい波の影響を特に受けているようです。事例報告によると、今回は明らかに若年層の死亡者数が多いことが示唆されています。しかし、症状が出ていない人も多いため、若年層の感染がどの程度増えているのかはまだはっきりしていません。

これまでにも再感染が報告されています。例えば、B・S・イェディユラッパ州首相は、カルナタカ州南部で、9か月の間に2度SARS-CoV-2の陽性反応を示した人がいました。2021年3月にEpidemiology and Infectionに掲載された1300人の陽性社を対象とした研究では、インドの医療研究センターによると、再感染率が4.5%で、10 そのうち多くの人は最初の観戦時には無症状であったことが分かりました。「再感染は以前はまれであると考えられていましたが、[今回の第2波では]その数が当初考えられていたよりも多いことが分かってきました。」とラハリヤは述べています。

新しい変異株が原因なのか?

インドでは、南アフリカ(20H/501YまたはB.1.351として知られる)、ブラジル(P.1)、イギリス(B.1.1.7)で最初に特定された変異株が蔓延しており、10月に新たに特定されたインド独自の変異株(B.1.617)も特定されています。すべてが要因である可能性が高いのですが、それぞれどの程度関与しているかはまだ分かっていません。

これらの変異株を研究しているケンブリッジ大学の臨床微生物学教授であるラヴィ・グプタは、「B.1.617変異株はインドの一部の地域で急速に広がっており、一部では以前に流行していたウイルスを圧倒しているようです」と述べています。「B.1.1.7が優勢な地域と、B.1.617が優勢な地域があり、どちらも既存株よりも優位になっている可能性がありまs。」

科学者たちが懸念しているのは、B.1.617の2つの変異株(E484KとL452R)で、これにより「二重変異株」と呼ばれるようになりました。グプタによると、L452Rの変異は、ワクチン接種や感染後に抗体によって認識されるスパイクの重要な領域にあるといいます。E484Kにもこの効果があります。「心配なのは、この2つの変異は、抗体に対するウイルスの感受性を低下させるという相加効果があるかもしれないということです」と述べていますが、現段階ではあくまで可能性の話であり、確証はないと言います。

コロナウイルスの遺伝子変異、特にB.1.1.7を監視するために、10の国立研究所からなるインドSARS-CoV-2ゲノミクス・コンソーシアム(INSACOG)が2020年12月に設立されましたが、検査・配列決定能力の不足が取り組みの妨げになっていると言います。政府のデータによると、インドは陽性検体の1%未満しかシーケンスが行われていないのに対し、米国では4%、英国で8%という割合になっています。11

イギリスでのインドの変異株の広がりについて何が分かっているか?

イギリス公衆衛生局は、イギリス国内で数件のB.1.617の症例を確認しており12、そのほとんどが旅行に関連しています。これを受けて、イギリス政府はインドを渡航禁止リストに追加し、首相は注目されていたインドへの外交訪問を中止しました。

イギリスで検出されたB.1.617ゲノムの数は、ここ数週間で増加していると、ケンブリッジ大学の公衆衛生・微生物学教授で、COVID-19ゲノミクスUKコンソーシアムのディレクターであるシャロン・ピーコックはScience Media Centreに次のように語っています。「これはイギリス全体で配列決定されたゲノムの1%以下であるにもかかわらず、症例の増加傾向は、この変異株がもたらす脅威レベルに関する継続的な不確実性が評価される一方で、行動を起こす必要があります。」と述べています。

危機がインドのワクチン展開に与える影響は?

インドは2021年1月16日にワクチン接種を開始しましたが、そのほとんどがインド血清研究所が製造したオックスフォード・アストラゼネカ社製のワクチン「Covishield」に依存しています。バーラト・バイオテックが製造しているインドの国産ワクチン「Covaxin」を摂取する人は少ないです。13 政府は、7月までに2億5000万人にワクチン接種を行うという目標を掲げていました。オックスフォード大学のOur World in Dataによると、これまでにインドは約1億1700万人にワクチンを接種しており、約1700万人が2回分のワクチン接種を受けています。

政府は、Covishieldの輸出を停止しており、この決定は、世界的なCOVAXイニシアチブを含む世界中のワクチン展開に影響を与えています。報道によると、政府はインド血清研究所バーラト・バイオテックに6億1,000万ドル(4億4,000万ポンド、5億300万ユーロ)の助成金を承認し、これから生産を増そうとしていますが、これは第2波の前に行われるべきだったと批判する声もあります。14

他のワクチンの承認と輸入は遅々として進まず、ファイザーなどは国内でのさらなる臨床試験を要求されています。政府は、都市部に住む多くの人たちのために、より多くのワクチンの輸入を許可することができたはずだとクッティは言います。「そうすれば、大きな負担に強いられている公共インフラへの負担を軽減することができます。」

この危機に直面して、政府はロシアのスプートニクVの使用を承認しました。ワクチンを世界的に販売しているロシアの政府系ファンドは、インドの5つの製造業者と年間8億5千万回以上の投与について契約を結んでおり、最初の接種は5月1日に開始される予定です。15

感染の増加に伴い、ホットスポットの病院ではワクチンが不足しています。16 クッティは、ワクチンが不足していることと、インドがどれだけ早くワクチン接種を行えるかというのは別問題だと言います。「ワクチンが十分に供給されていたとしても、現在の[医療]インフラでは、迅速な対応ができないと思います。政府は、できるだけ短時間に多くの人口をカバーするための本格的なキャンペーンを計画しなければなりません。」

また、45歳以上の人たちと第一線の医療従事者へのワクチン接種は連邦政府が負担していますが、それ以外の年齢層向けのワクチンは地方予算から出さなければなりません。州政府は、ワクチンメーカーと直接交渉して必要な量を購入するよう求められていますが、州間で予算や医療制度が大きく異なるため、恣意的で差別的であると批判されています。17

参考文献

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  17. Sebastian M. Arbitrariness of centre’s covid vaccination policy which forces states to compete in open market for vaccines. 22 Apr 2021. Live Law. https://www.livelaw.in/columns/arbitrariness-of-centres-covid-vaccination-policy-forces-states-compete-open-market-vaccines-172920.

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